ホモ・サピエンスは進歩か退歩か(3月14日の日に想う)


3月14日―アインシュタイン生誕145年(2024年)。
1930年ベルリンのアインシュタインの別荘で、アジアで最初にノーベル賞を受賞したインド詩人のタゴール(T)と科学者A.アインシュタイン(E)がヒト族を代表してディスカッションをした話は有名だ。
(T)この世界は人間のもの。科学も所詮は科学者の見方。
(E)真理は人間と無関係に存在する。例えば私が見なくても月は確かに存在している。
(T)あなたの意識には無くても、他人の意識にはある。人間の意識の中にしか月は存在しない。
(E)私は人間を超えた客観性が存在するものと信じている。
xxxxx(詳細略)
理論物理学者とインド詩人の対話から、数えて94年目を迎える。

科学の進歩はすさまじい。1920年代に始まる理論物理学の発展は誰も止められない。アインシュタイン物理学から花開いた人類の描いたサイエンス世界。その後の「素粒子論」世界に集まった科学者たちの顔ぶれを見れば、まさにホモ・サピエンス世界をリードする科学真っ盛りの様相だ。ハイゼンベルク、シュレディンガー等がリードする天才たちの競争時代が1920年代に現れる。特殊・一般相対論、素粒子論から世の中を変え、今や「量子重力論」が新たな時代を切り開く時が来た。

さて、子供の頃「ウロボロスの蛇(完全・無限の象徴)」にひかれた。文系の自分には、物理学の描く宇宙や数式の中身は判らないことが多いが、その後「二十億光年の孤独」をうたった谷川俊太郎氏の詩で地球の孤独を感じた。
19世紀末に画家ゴーギャンが描いた大作、「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」を見ながら、南洋の人たちの目を通してこの地球、宇宙へと広がるヒト族の大いなる夢に興味がわいた。
その後は、バリバリの文系バンカーとして、縁あってアメリカ、インドやパキスタンを巡り、20年近く世界の人たちとビジネスでディベートする世界を渡り歩いてきた。

70歳を前に祖国に戻りし時、湯川秀樹博士の「パイ中間子」論とその後生涯をかけて追及された「素領域」論の難しい理論と共に、時に好んで詠まれた和歌のうち、
「天地(あめつち)は万物の逆旅(げきりょ)なるかも
鳥も人もいづこよりか来ていづこにか去る」
に接していたく心を揺さぶられた。科学の向こうにヒト族の描く夢の世界が見えて来る。

今、現代物理学の進歩(量子論、天文学、数学等の併せ技)はすさまじい。理論物理学と大型加速器等観測技術の長足の進歩で、ヒト族は誕生後138億年の宇宙のプロフィールを明らかにしてくれる。
「我々はどこから来たのか」。今なら、シロートの自分でも宇宙における物質世界に始まり、星の欠片(かけら)から出来上がった生命誕生から、ヒト族ことホモ・サピエンスが最終コーナーに出現、7.8万年もの間、知的活動を広げてきたことを理解できる。
「我々はどこへ向かっているのか」。今なら、50億年前の太陽の誕生、46億年前の地球の誕生まで、小学生でも知りうることに始まり、1998年に観測された加速膨張を続ける「我々の宇宙」、その中で孤独の水惑星「地球」は、仲間の星々がどんどん遠くへ遠ざかりますます孤独を究めることが理解できる。それは谷川氏の詩句「二十億光年の孤独に/僕は思わずくしゃみをした」へと繋がる。ある理論物理学者殿は、これから40億年もたてば、最も近くにあるアンドロメダ銀河が、我々の太陽系、天の川銀河に接近し、いずれは地球、太陽系を含む天の川銀河系全体を飲み込んでしまうと怖いことをさらりとおっしゃる。

2024年3月14日は、アインシュタイン誕生から145年。
さて我々ホモ・サピエンスは、宇宙の姿にここまで理解を深めてきて、更にこれからどこに永遠の住まいを見つけるのだろうか。
フリーマン・ダイソン氏(Imaginative Worlds, 1997)は、人類が、100万年の気の遠くなるようなスケールで地球から出発、近くの銀河まで移動する夢を描いてくれたが、現代物理学は、その観測技術の発展で、それではすまない宇宙の動きを冷静に暴いて見せる。

ヒト族のそんな、壮大なロマンある物語が出来つつある中で、この「ちんまい地球」社会。旧約聖書に書かれたという「大イスラエル国」をナイル川とチグリスユーフラテス川の間に建設するため、お互い共存の歴史ある住民仲間のパレスチナ人に、これでもかとジェノサイド的殺りくを繰り返し全員「ガザ・西ヨルダン地区」から追い出してエジプトのシナイ半島に難民として追放計画をする極右イスラエル政府の現状を見るにつけ、そしてそれを黙認する世界最強の民主主義国あめりか帝国の政治実体をなんとしよう。

人間という知的生命体の未来は、これから一体どうなるんかいと思わざるを得ない。

投稿者: 佐々木 洋 英語 1973年卒業

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“ホモ・サピエンスは進歩か退歩か(3月14日の日に想う)” への1件のコメント

  1. 佐々木さん、雄大な宇宙論とともに繊細な人間論の展開、ありがとうございます。また国立・一橋の緑の中で人生を語り合いましょう。

    投稿者:奥川光昭 英語 1973年卒業