本(訳書)の紹介:一葉の震え


20150125

原著の著者ウイリアム・サマセット・モームは、最近卒業した若い世代はそうでもないでしょうが、東京外語のかなり前の卒業生なら、おそらく馴染みのある名前ではないかと思います。『人間の絆』や『月と六ペンス』などが最も知られていますが、本書の六つの短編の中の「雨」も人気の点ではそれらに劣らないと思います。

我が国でもつとに評判の高かった短編小説集ですから、すでに邦訳は出ていますが、一人の訳者が全六篇を訳出したものは世に出ていなくて、その意味では拙訳が本邦初の全訳です。どんな名訳でも五十年も前の刊行であれば、やはり随所にかび臭さが鼻をつきます。拙訳は、自画自尊すれば、その意味で古い革袋を新しいものに変え、古かったワインに新しいフレーバーを与えたものと言えるでしょう。

モームはこの南海の諸島を舞台にした短編を書く前に、ほぼ半年間ハワイ、サモア、フィージー、タヒチ、トンガ、ニュージーランドを訪れています。その経験が起爆剤となり、彼の物語作家としての創造力に翼を与え、彼はリアリストとしての冷徹な視線に皮肉と諧謔を交えて、南海の暑い空気と自由な生活に憧れる西洋人の夢と現実を描いています。

今なお世界の読者に愛される文豪モームの珠玉を多くの人に味わっていただきたいと願っています。
目次は次のとおりです。

一. 太平洋(前書き)
二. マッキントッシュ
三. エドワード・バーナードの凋落ちょうらく
四. レッド
五. 小川のふち
六. ホノルル
七. 雨
八. エピローグ

訳者あとがき
訳者の私は、1965年に英米科を卒業し、サラリーマン生活の安定と享楽(私個人の話です)を捨て、中老年に差し掛かって大学における英語教育に身を転じた者です。大学は四年前に定年となりました。翻訳としてはこれが三冊目です。
題名:『一葉ひとはの震え』―「雨」ほか、南海の小島にまつわる短編集 (334ページ)
訳者:小牟田 康彦(こむたやすひこ)
原作:ウイリアム・サマセット・モーム作 The Trembling of a Leaf; The Stories of the South Sea Islands
発行所:近代文藝社
第1刷:2015年1月20日
定価:2,000円+税
ISBN:978-4-7733-7967-9 C0097

投稿者 : 小牟田 康彦 英米語 1965年卒業

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