今年十一月中旬に出版社未知谷から上記写真題名の編訳を出版しました。
サマセット・モーム(1874-1965)は数多くの小説、戯曲、紀行文、エッセイなどを発表していますが,他にいくつかのアンソロジーを編纂しています。その中に1943年にニューヨークのダブルデー社から刊行されたGreat Modern Reading: W. Somerset Maugham’s Introduction to English and American literature があるのを私はモームの南海もの短編集The Trembling of a Leaf(拙訳『一葉の震え』近代文藝社、2015)の翻訳中に知りました。
このアンソロジーは、当時、書籍が簡単に手に入りにくかった地方に住むアメリカの読者が、英米文学を広く浅く俯瞰できるように、20世紀前半の英米の作家や文人による短編小説(short stories)、詩、文芸評論、エッセイ、書簡などを153篇詰め込んだかなり浩瀚な本です。筆者はアメリカ文学の研究者ではないのですが、どうしてもいくつかの米人作家の短編小説とモームがそれらを選択した視点と作品に対するコメントを併せて紹介したいという強い思いに駆られました。上記アンソロジーに採録された米国人作家の短編小説43篇から筆者自身の基準で9篇を選択し翻訳しました。しかし、出版する段階になって、紙数の関係で3篇は割愛せざるをえませんでした。
皮肉なことに、その中の一つヘンリー・ジェイムズ著The Beast in the Jungleは随所に晦渋な文章があり、筆者は翻訳に最も苦しみ、最も長い時間を費やしたのですがその反面、仕上げた訳文にそれなりの自負があり愛着のある作品でした。しかし、これは短編というより中編に近い紙数のため、未知谷の編集者とすぐ合意できた6作品の出版を前提にすると、どうしても編入できず、後ろ髪を引かれながら、削らざるをえませんでした。
結局残った6作品は、いずれもモームの好みにあった作風で、奇抜なあるいは予想外の結末で読者に強烈な印象を与える名作です。六人の作家のうち三人は世界大恐慌後に、互いに10年以内の間隔でノーベル賞を受賞した作家(1949年ウイリアム・フォークナー、1954年アーネスト・ネミングウエイ、1962年ジョン・スタインベック)で、彼らは世界的に著名ですから、ほとんどの読書人は彼らの作品の一つや二つあるいはそれ以上を読んでいるでしょう。ここで取り上げた作品については、冒頭の私のささやかな解説も参考にしてまず読んでいただきたいです。
残る3人の作家もそれぞれにユニークで評価の高い作品を発表しています。特にF.スコット・フィッツジェラルドは日本でもファンが多い作家で、拙訳『再訪のバビロン』は、先人による既訳もいくつかあり、私としても意識せざるをえず力がはいりました。イーディス・ウオートンの『ローマ熱』は二人の上流社会の婦人の会話の展開が絶妙です。
途中で思わぬ病魔に見舞われたこともあり、翻訳を始めてから出版されるまでに2年余の時間が経過しましたが、本編訳の上梓は喜寿を迎えた年を締めくくるにふさわしい出来事で何よりの励ましとなりました。
投稿者: 小牟田康彦 英米科1965年卒業