戦時下の(とは思えない)ロシアから愛をこめて


モスクワ在住経験3回目の4年目に突入した森(旧姓岡崎)和美(ロシヤ語学科95年卒)と申します。ロシア全土に大使館を始め多くの先輩方がいらっしゃる中で、僭越ではございますがロシア現況につきご報告させて頂きます。既に日本でも広く報道されている通り、戦時下にもかかわらずロシア経済(特にモスクワ)は指標の上ではピークアウト、減速しつつも、まだまだ底固く消費文化を謳歌しており、通りのカフェは美しく色とりどりの花で飾られ、治安も良く毎夜深夜まで女子会に興する若い女性の姿も見られるなど賑わいを見せています。物資も潤沢で欧米産の消費財は中国・トルコ製に代替され、ドローンの飛来で空港が閉鎖される頻度が増えたことを除けば、安定・安全な生活を送ることができます。市民の厭戦気分はデモのような形では顕在化しておらず、米露アラスカ首脳会談以降加速化するかと思われた和平交渉もモメンタム失い停滞気味で、個人的にはやるせない気持ちで一杯です。日本企業駐在員目線では、日本社会と本社からの強い嫌露ムードに負けず戦後の日露経済の靭帯となるべく勤勉なロシア人スタッフや親日パートナー企業と協力して励もうと思う一方で、人知れず罪悪感を押し隠す複雑な心境の毎日です。

さて本題ですが、そんな閉塞感を吹き飛ばす素敵な訪問客(外語大OB)がありました。NPO法人武徳和心会会長を団長とする剣士の皆さんがロシア人のお弟子さん達のお稽古のためにカザン、モスクワに遠征される機会があり、急遽、緊急外語会が開催されました。戦争はいつかは終わる、日本武道を愛する心に国境はない、と日露戦争時に島根に流れ着いたイルテッシュ号の船員を地元民が救助したエピソードまで力強くお話して下さり、またこうした活動が自費のボランティアで長年に亘り行われていることを知り、先輩方の平和を願う志の高さに感銘を受けました。

まだまだ和平の見通しは立ちませんが、ロシアが日本の隣国であることは避けられない現実ですので、相互理解の取り組みを風評被害、プロパガンダで見失うことのないようにしたいものです。在ロ日本企業も負けじと在ロシア日本大使館とも会話を重ねた成果もあって、先日、日本外務省の渡航レベル3(中止勧告)に緩和表現が追記され、これまで大学側が自粛していたロシアの大学との交換留学を再開可能とすることができるようになりました。過去当地外語会に参加してくれた現役学生さんは留学先をロシアとすることが大学から許可されず、それでも隣国カザフスタンやウズベキスタンに留学してロシア語の勉強を継続され、留学先からの旅行でどうにかこうにかロシアに入ってきて迄、研究対象に触れる機会を創出していると聞く度に、強い探求心に心打たれると同時に切ない気持ちになっていましたが、これからは教官の皆さんも学術目的で正々堂々とロシア国内に渡航できるようになればと思います。分断を煽るディスインフォメーションに惑わされない価値判断が求められる時代に、正しく状況認識する人材育成のためには偏見のない若い世代の草の根交流経験がパワフルな国力の礎になると信じてやみません。アニメや漫画に頼らず海外に飛び出して日本の強さを再認識しながら素敵な経験をして下さい。みなさんの留学を応援しています。

投稿者:森(旧姓岡崎)和美(ロシヤ語学科1995年卒)

<写真>
左から内倉さん(1986年卒)、森(1995年卒)、加藤さん(1979年卒)、細川さん(1980年卒)、栗原さん(1983年卒)全てロシア語学科

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