新刊の紹介『北タイ王国の面影―解説 英国人領事官が見た民衆・社会・文化』


著者 W.A.R.ウッド
訳解説 吉松久美子
出版社 明石書店
定価 本体3600円+税

翻訳と解説本を出版しました。
北タイをフィールドとして研究を続け、2023年に教職を退きましたが、学生が楽しみながら北タイの歴史や文化を学べる解説書を提供したいと本書を上梓しました。
著者W.A.R.ウッドはタイにおけるラフカディオハーンといってもよい人物です。1896年に18歳で英国領事館員としてタイへ渡り、91歳でチェンマイにて亡くなりましたが、その長きに渡る北タイの暮らしの中から自らの体験や土地の伝承を集めて25話の短編集を出版しました。当時の北タイはラーンナー王国の伝統を色濃く残し、奇談怪談といえるような話が多く集められていて、読み物としても楽しめます。
例えば悪霊に魅入られた男が赤い水たまりを残してかき消すように消えてしまった話(「独りになれない男」)、闘虫試合で賞金の稼ぎ頭だったカブトムシに降りかかった悲劇(「闘カブトムシ」)、英国人旅行者の失踪と時を同じくして現れたお寺の猿の石像(「石の猿」)、女装するトランスジェンダーの男性の思わぬハッピーエンディング(「プミア」)、等々。
これらを読み解きながら、現在の北タイへとつながる歴史や経済、信仰、文化を後半で解説しています。まず始めに今でも複雑に絡み合っている民族呼称について(「1、タイ・シャム・ラオ・シャン」、また今のタイ王国とは異なるラーンナー王国独自の仏教について(「2、二つの仏教」)、北タイの寺院に安置されている聖獣像について(7、聖なる生き物たち)、男を襲ったピーと呼ばれる精霊について(「8、精霊信仰」)、さらに、プミアと呼ばれる北タイの伝統的なトランスジェンダーと現在タイの美しきカトゥイとの関係について(「10、第三の性」)等々。以下が解説の目次です。

  1. タイ、シャム、ラオ、シャン
  2. ラーンナー王国
  3. 交通
  4. 二つの仏教
  5. チェンダオ洞窟寺院
  6. 寺院の構造
  7. 聖なる生き物たち
  8. 精霊信仰
  9. 恋愛と結婚と家族
  10. 第三の性
  11. サファイアとルビー鉱山
  12. 薬物の流通

ウッド氏の編んだ短編集を読みながら北タイの文化を深く理解できるような構成になっています。つまり、楽しみながら学べる本なのです。

投稿者: 吉松久美子 大学院地域文化研究科 博士号取得 2012卒業

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