放送局体験を退職後も生かす~民俗音楽の研鑽


学生に伝えたい私の業界経験 「放送局体験を退職後も生かす~民俗音楽の研鑽」

塩口宏(昭和47年 英米科卒 元NHKチーフディレクター)
無題

言語も音楽も耳から入って心に届くことが共通だ。世界の民族の民俗(フォーククロア)的音楽の世界に魅せられた私!24歳でNHK松江放送局に赴任して、島根大学の音楽助教授の水野信夫先生の地方向け音楽放送を担当して彼と意気投合してきた。彼はヘブライ(ユダヤ)や中近東音楽を芸大で専攻し、ローカルでは山陰のわらべ歌採譜もした。幼時に両親を失った彼だがその実家で三味線など日本の伝統的楽器で遊んだのだ。大学ではインドネシアのガムラン楽器や日本の土笛を学生に演奏させ、のち兵庫教育大学教授及び民博併任教授となる。紛争地域だったイラクやエジプトに残るコプト教会のキリスト教徒の「音風景」を録音する為に東京外大西ヶ原キャンパスでアラビア語を学んだ。私は66才だが、ボランティアで放送大学番組を企画し、水野講師による「心に響く音文化」45分x2本(‘民俗音楽への招待’と‘中東の音文化’)を実現させた。

先生は、音楽は世界の架け橋と考える。アラブとイスラエルの両方を熱狂させた歌姫・故ウンム・クルスームを研究し、自身のメールアドレスにクルスームの名を挿んだ。私がエンカ・バラードと呼ぶ分野は、アラブ・トルコ・朝鮮半島・日本に共通するメロディーや人生の哀感が表現されていて、面白い事に大阪の辺の河内音頭のリズムなども似ている!

そんなわけだが私は長年集めてきた世界の民俗音楽の中でのお勧めは、東欧のブルガリアのポリフォニーという特殊なコーラスや、他の東欧地域に広がる、ロマ(ジプシー)の音楽、中国の雲南省の辺の少数民族の明るくゆったりした音楽、ラマ仏教を共有するモンゴル・ネパール・チッベット音楽、日本仏教の声明等だ。自然や人工的環境が、祭りや儀式や仕事唄の表現を変化させると気付いた。例えば大昔は暖かい南方にいたヤクート族は、他族に押され追われて、あろう事かシベリアのバイカル湖に近いツンドラ(凍土)地域まで逃れて定住したが、その結婚祝いの民俗音楽を聴いてたまげた!何と暗く、寒々しく、のろい音楽だろう!北極に近い、日照時間も少ないエスキモー(イヌイット)の唄に通底するものがあると感じた。

以上、自分の在職体験で得たいくつかの興味あるテーマのひとつを紹介した。他にも、退職後も研究しているテーマ(日本に帰化した小泉八雲ことラフディオ・ハーン)等、10指に余る分野を自身のライフワークに採り入れている。皆さんも、在職中に得た知的財産のいくつかを大切に発展させてみるといいですよ!勿論、世界の言語や地域文化の幅を増やすのも素晴らしい。ボケ防止の為にも、常に情報に目を通し、新しくアップデイトしていって下さい!!