タイの人々の心を映す民話
少女ピクントーンは、意地悪な母親と姉と三人での極貧の暮らし。母親は姉のみを可愛がり、ピクントーンには、水くみ、米つき、畑仕事などつらい仕事ばかりを言いつける。
ある晩、ピクントーンが川へ水くみに行った帰り道、老婆が現れ、水が欲しいと言う。暗い夜道の中、やっとのことで運んできた水を、惜しみなく与えるピクントーン。心やさしいピクントーンに老婆は、ある「霊力」を授ける・・・・
この民話に現れる老婆は、「ピー」という自然界に宿る精霊。「ピー」は人々の生活を守護するが、一方、不敬な行いには災いともたらすと言われる。タイの人たちは「ピー」に深い畏敬の念を持っており、常に心の底で「ピー」を意識しながら生活している。タイを訪れると、民家の庭先、ホテルの前、ビルの屋上など、街のいたるところに「ピー」を祀った小さな祠が立っており、その前で手を合わせる人々を目にする。この民話は、こうしたタイの人たちの心をよく映している。
最近、タイの小説や映画は、日本でもかなり紹介されてきているが、民話はまだ紹介されていない。本書はタイ文化、異文化理解のために貴重な資料であるとともに、子供たちにとっても、国際感覚を養う上で、また慈悲深い心の大切さを学ぶ上で大いに役立つものと思われる。
かわいいい少女の絵、爽やかなタイの風景の絵と相まって、すがすがしさを感じさせ、大人も子供も楽しめる絵本です。
作・画・翻訳:齋藤佐知子(1967年タイ語卒)
著者は大学、大学院を通じタイと日本の民話の比較、さらにミャンマー、ベトナム、カンボジアなどの民話の研究を重ねた研究者。長年英語教育にも携わり、現在、立正大学英語講師。
紹介者:山中 義矩(1967年タイ語卒)